配偶者居住権の要件やメリット・デメリットをわかりやすく解説
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配偶者居住権とは、残された配偶者が持ち家の所有権をもっていなくても住み続けられる権利を指します。
この配偶者居住権は令和2年4月から導入され、令和3年以降大幅に増加し、直近の令和6年における登記件数は861件となっています。
本コラムでは、配偶者居住権の概要やメリット・デメリット・設定すべきケースなどについて、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士が解説します。
出典:「2024年 登記統計 統計表」(法務省)
1、配偶者居住権とはどのような制度か?
配偶者居住権とは、配偶者が被相続人(亡き夫または妻)名義の持ち家に、そのまま住み続けられる権利です。配偶者居住権を活用すれば、残された配偶者は自宅の所有権を相続していなくても、無償で住み続けられます。
以下では、この制度を使用するために必要な成立要件と、似て非なる制度である配偶者短期居住権との違いを確認していきましょう。
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(1)配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権を成立させるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
配偶者居住権の3つの要件
- ① 被相続人の法律上の配偶者であること
- ② 相続開始時点で被相続人が所有する建物に配偶者が住んでいたこと
- ③ 遺産分割・遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判のいずれかの方法で配偶者居住権を取得したこと
配偶者居住権を取得できるのは、被相続人と法律上の婚姻関係にある配偶者のみです。内縁関係や親子関係は認められません。
また、相続が開始した時点(被相続人が亡くなった時点)で、対象の建物に配偶者が住んでいたことも要件のひとつです。遺産分割協議などによって配偶者居住権を取得したあとは、登記申請や相続税申告といった手続きも必要になります。 -
(2)配偶者短期居住権との違い
配偶者居住権と混同されやすい制度として、「配偶者短期居住権」が挙げられます。配偶者短期居住権の特徴は、以下のとおりです。
配偶者短期居住権の特徴
- 遺産分割や遺贈の有無に関係なく、自動的に権利が認められる
- 少なくとも相続開始から6か月間は無条件で居住できる
- あくまでも一時的な居住の確保にとどまり、登記はできない
一方で配偶者居住権は、生涯または遺産分割などで定めた期間にわたって住み続けられる権利です。遺産分割や遺贈などによる取得が必要であり、登記も欠かせません。
配偶者短期居住権は一時的な権利であるため、長期間住み続けるには配偶者居住権の設定を検討する必要があります。
2、配偶者居住権のメリット・デメリット
配偶者居住権は、残された配偶者の住まいを保護するために有効な制度ですが、利用にはメリットとデメリットがあります。制度を正しく理解するためにも、具体的なメリットとデメリットを見ていきましょう。
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(1)メリット
配偶者居住権を設定する主なメリットは、以下のとおりです。
配偶者居住権を設定する主なメリット
- 配偶者が終身で自宅に住み続けられる
- 他の相続人との間で公平な遺産分割がしやすい
- 自宅の所有権を子が取得しても追い出されない
- 遺留分侵害リスクの軽減につながる
配偶者居住権を取得すると、自宅を「配偶者居住権」と「所有権」のふたつにわけて遺産分割ができるようになります。これによって、配偶者は自宅の所有権を相続しなくても、法的に保護された形で自宅に住み続けられます。
建物や土地などの不動産は価値が高く、相続トラブルの要因となりがちです。しかし、所有権をほかの相続人が相続することで、公平な遺産分割が実現しやすくなるでしょう。 -
(2)デメリット
一方で、配偶者居住権を設定すると、以下のようなデメリットも生じます。
配偶者居住権を設定するデメリット
- 建物の売却・担保設定が制限される
- 建物の修繕・維持費が発生する
- 相続税評価が複雑になり、手続きが煩雑になる
配偶者居住権を設定すると、不動産の処分や税務処理の面で一定の制限や手間が発生するため、事前に理解しておくことが大切です。
とくに、相続人の間で資産を自由に活用したいと考えている場合には、慎重に検討する必要があります。
3、配偶者居住権を設定した方がよいケース
配偶者居住権は、すべての家庭にとって有効な制度とは限りません。以下では、配偶者居住権の設定を検討すべき代表的なケースを4つ解説します。
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(1)配偶者が住居を確保したい
配偶者居住権を活用するもっとも基本的なケースは、被相続人の配偶者の住居を引き続き確保したい場合です。
とくに高齢の配偶者にとっては、住み慣れた自宅で生活を続けられることは心身の安定に大きくかかわります。配偶者居住権を設定することで、ほかの相続人が建物所有者となっても追い出される心配がなくなり、安心して住み続けられます。
被相続人の生前から配偶者居住権の設定を見据えている場合は、遺言書に意向を示しておくことがおすすめです。 -
(2)自宅以外の相続財産がほとんどない
自宅以外に相続財産がほとんどないケースも、配偶者居住権を設定したほうがよいケースのひとつです。
相続財産の大半が自宅という家庭では、相続人同士での財産の分割が非常に難しくなる傾向があります。誰が自宅を相続するかで争いが起きるケースも少なくありません。
しかし、配偶者居住権を利用すれば、自宅の「居住権」と「所有権」をわけて評価できます。配偶者が自宅に住みながら所有権をほかの相続人に渡すことで、柔軟な遺産分割が可能となります。 -
(3)再婚家庭・二次相続を見据えた設計をしたい
再婚家庭の場合は、被相続人の配偶者と前婚の子どもが相続人として共存することが多く、相続関係が複雑になりがちです。
配偶者居住権を設定すれば、配偶者には居住の権利を保障しつつ、家の所有権は子どもに渡すという公平な選択ができます。
また、二次相続も見据えた遺産設計を行える点でも、配偶者居住権は有効です。二次相続とは、1度目の相続(一次相続)の相続人が死亡したときに発生する相続を指します。
設定した配偶者居住権は配偶者が亡くなると消滅するため、二次相続が発生した際に相続税の節税につながります。 -
(4)将来的に施設入居や住み替えを検討している
将来的に介護施設への入居や住み替えを検討している場合でも、配偶者居住権を活用できる可能性があります。
配偶者居住権は、必ずしも終身で設定しなければならないものではありません。「10年間」「20年間」など、一定期間に限って権利を設定することも可能です。
一定の期間を定めることで、配偶者の居住を確保しつつ、その後の不動産の活用計画にも柔軟に対応できるようになります。たとえば、施設に入居したあとは居住権を抹消し、家を売却したり譲渡したりする選択も可能です。
4、配偶者居住権の設定・登記手続きの流れ
配偶者居住権を実際に利用するためには、制度上の「取得」と「登記」が必要です。以下では、配偶者居住権を設定する一連の手続きの流れと注意点について解説していきます。
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(1)配偶者居住権を取得
最初に行うのは、配偶者居住権の取得の確認です。配偶者居住権を取得する方法には、以下の4つがあります。
- 遺産分割協議で相続人全員の合意によって配偶者居住権を取得する
- 被相続人が遺言書に「配偶者に配偶者居住権を遺贈する」旨を記載している
- 生前に被相続人と配偶者が配偶者居住権に関する死因贈与契約を結んでいる
- 家庭裁判所の審判によって配偶者居住権の取得が認められる
いずれの場合も、相続開始時点で法律上の配偶者が対象の建物に住んでいたことが条件となります。遺産分割協議がまとまらない場合は家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てて、配偶者居住権の取得希望を申し出ましょう。
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(2)法務局への登記申請
配偶者居住権を取得した後は、法務局に対して配偶者と建物の所有者が共同で登記申請を行う必要があります。登記とは、不動産の権利関係などを登記簿に記載する手続きです。
登記を行うことで、ほかの相続人や第三者に対して配偶者居住権の効力を主張できるようになります。
なお、相続登記は令和6年4月から義務化されました。不動産の相続を知った日から3年以内に登記申請しなければ10万円以下の過料が適用される可能性もあるため、早めの手続きが必要です。 -
(3)相続税の申告をする
配偶者居住権は相続財産のひとつとして扱われ、相続税の課税対象となります。相続税の申告と納付には期限があり、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
正当な理由なく期限を過ぎると加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があるため、忘れずに申告しましょう。
各種控除や相続税の計算は複雑なため、申告ミスを防ぐためにも弁護士や税理士に相談することをおすすめします。 -
(4)配偶者居住権登記後の管理・注意点
配偶者居住権の登記が完了したあとも、その家を使い続ける以上、一定の管理義務が生じます。
たとえば、建物の通常の修繕や維持管理は、居住している配偶者の責任で行わなければなりません。配偶者居住権は長期的に住むことを前提としている権利であるため、適切な管理を怠らないようにしましょう。
また、配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅します。登記は自動的に消えるわけではないため、配偶者の死亡時は建物の所有者が配偶者居住権の消滅登記を行う必要があります。
5、まとめ
配偶者居住権は、残された配偶者の住まいを法律的に保護するための制度です。制度を正しく理解し、適切に手続きを行うことで、住まいの安心や相続人間のトラブル回避につながるでしょう。
しかし、配偶者居住権を設定する過程には、登記申請や税務申告など複雑な手続きも含まれます。不安がある場合には、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
配偶者居住権の設定や相続手続きで悩んだときは、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士にご相談ください。配偶者居住権の成立要件を満たしているかどうかやどのように設定すべきかなど、状況に応じてサポートいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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