職場の上司を殴ったらどうなる? 暴行罪・懲戒解雇のリスク・逮捕後の流れ
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- 上司
- 殴る
- 逮捕
京都府警察の発表によると、京都府で起こった暴行と傷害を含む粗暴犯の令和7年の認知件数は953件でした。また、検挙人員は暴行罪322人、傷害罪403人です。
職場の上司を殴ってしまった場合、これら暴行や傷害の罪に問われる可能性があります。
本記事では、ベリーベスト法律事務所 京都オフィスの弁護士が、暴行罪・傷害罪が成立する基準や、懲戒処分・解雇の可能性について解説します。
出典:「犯罪統計書(令和7年中)」(京都府警察)
1、職場の上司を殴ったら何罪が成立する?
他人を殴るのは犯罪行為になり得ることです。部下が職場の上司を殴った場合も例外ではありません。たとえ相手のパワハラやセクハラなどのハラスメント行為が原因であったとしても、上司を殴ったら、暴行や傷害の罪に問われる可能性があります。
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(1)暴行罪
暴行罪は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立する犯罪です。実際にけがを負わせなくても、殴る・蹴るといった行為そのものが、暴行罪(刑法第208条)にあたる可能性があります。
具体的には次のようなときです。- 上司を殴ったが、けがはなかった
- 上司を突き飛ばしたが、転倒しなかった
- 上司の胸倉をつかんで揺さぶった
- 当たらなかったが、上司に向かって灰皿や書類を投げつけた
暴行罪の法定刑は次の通りです。
法定刑
2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 -
(2)傷害罪
暴行の結果、上司が打撲、骨折、裂傷など何らかのけがを負った場合は、傷害罪(刑法第204条)にあたる可能性があります。一度殴っただけでも、けがが生じれば傷害罪に該当し得るのです。
また、軽傷であっても、医師の診断書が提出されれば傷害罪として扱われることがあります。
具体的には、以下のような場合は傷害罪になる可能性があります。
- 上司を殴って全治1週間の打撲を負わせた
- 突き飛ばしたことで、上司が転倒して骨折した
- 胸倉をつかみ、上司が首を痛めた
- 暴行によって上司が精神的ショックを受け、医師の診断書が出た
法定刑からもわかるように、傷害罪は暴行罪よりも重い犯罪だと言えます。法定刑は次の通りです。
法定刑 15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
2、会社での扱いはどうなる? 懲戒処分・解雇の可能性
部下が上司に対して暴行や傷害を行ってしまった場合、会社での扱いはどうなるのでしょうか。会社から下され得る処分にはさまざまな種類があります。
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(1)職場の上司を殴ったときに対象となる懲戒処分の種類
一般的に、企業は就業規則の懲戒条項において「職場秩序を乱す行為」「暴力行為」を懲戒事由として定めています。そのため、上司を殴る行為は、就業規則違反となり得ます。とくに暴力行為を行った社員や従業員は、重大な規律違反をしたと評価される可能性があるでしょう。
懲戒処分の内容は企業によって異なりますが、想定される処分は次の通りです。
- 戒告
- 減給
- 出勤停止
- 降格
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇
① 戒告
懲戒処分のなかでもっとも軽いとされる処分です。将来の行動を戒めるために注意を受ける処分で、始末書の提出などを求められます。
② 減給
一定期間、賃金の一部が減額される処分です。減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならないなど上限が設けられています(労働基準法第91条)。そのため、比較的軽い処分だと言えるでしょう。
③ 出勤停止
一定期間の労務を禁止する処分です。出勤停止期間中は賃金が支払われないのが通常であるため、減給よりも厳しい処分だと考えられます。
④ 降格
役職や職位を引き下げる処分です。その結果として、基本給や手当が減額となることがあります。
⑤ 諭旨解雇
会社が自主退職を促し、応じない場合は懲戒解雇とする処分です。諭旨解雇を選べば、退職金が一部支給されるケースがあります。
⑥ 懲戒解雇
もっとも重い懲戒処分で、退職金が不支給となるケースもある厳しい処分です。重大な規律違反があった場合に選択されます。 -
(2)懲戒解雇が有効になる基準
懲戒解雇は、懲戒処分のなかでももっとも重い判断です。そのため、簡単に行うことはできません。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と労働契約法第16条に規定されています。
したがって、その解雇の有効性は、「客観的合理性・社会的相当性」によって判断されます。
判断の要素は次の通りです。
- 行為の態様:暴行の執拗さ、危険性、計画性の有無。
- 結果の重大性:被害者の怪我の程度や、企業秩序に与えた混乱の大きさ。
- 経緯と動機:上司側に暴行を招くような言動(ハラスメント等)があったか、あるいは突発的か独善的な性格に根ざしたものか。
- 事後の態度:本人が反省し二度と行わない旨を誓約しているか。過去に同様の注意指導を受けても改善されなかった経緯があるか。
刑事事件化している場合は、とくに厳しい判断がなされるでしょう。
ただし、示談が成立していれば懲戒解雇を免れられるというケースもあります。とくに弁護士を介して交渉を行えば、解雇を回避できる可能性を高めることができます。
3、上司から刑事告訴された場合の流れ
上司を殴るなどして上司から刑事告訴されると、どうなるのでしょうか。刑事事件化のきっかけや事件化した後の流れを見てみましょう。
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(1)捜査開始
上司が刑事告訴をすると、捜査が開始します。
ただし、刑事事件として捜査が始まるのは、上司が警察に被害届や告訴状を提出した場合に限りません。暴行罪や傷害罪は非親告罪に分類され、警察は被害者の届けがなくても立件することができます。つまり、事件発覚または上司の被害届や告訴状提出によって捜査が開始されます。
なかでも告訴状が受理された場合は、ほとんどの場合捜査が開始されると考えてよいでしょう。 -
(2)事情聴取
捜査が始まると、加害者は警察から呼び出しを受け、当日の状況や動機、反省の有無などについて事情聴取されます。
事情聴取での対応が、その後の処分に影響を与えることがあるので慎重に対応しなければなりません。
事情聴取をはじめ、捜査は逮捕されたうえで行われるとは限りません。逮捕される場合と逮捕されない場合があります。
① 逮捕される場合
逃亡や証拠隠滅(被害者への不当な接触など)の懸念がある場合、逮捕による身柄拘束がなされる可能性があります。
② 逮捕されない場合
逮捕されないときは、在宅捜査として手続きが進みます。被害者への接触はもちろん、逃亡や証拠隠滅のおそれも低いと判断されれば、身柄拘束を受けずに日常生活を送ることが可能です。事情聴取の際は、警察署へ出向くことになります。 -
(3)逮捕された場合の72時間以内の手続き
逮捕されると、警察は48時間以内に事件を検察へ送致し、検察官は24時間以内に勾留請求するかを判断します。合計最大72時間、身柄拘束をされたまま取り調べなどの捜査を受けることになるのです。
供述内容は重要な証拠となります。そのため、どこまでをどのように話すべきか、きちんと考えて発言しなければなりません。
早期に弁護士と接見し、対応方針を整理することをおすすめします。 -
(4)勾留
逮捕後、さらなる身柄拘束が必要だと判断された場合、検察は勾留請求をし、裁判官が認めれば原則10日間の身柄拘束が続きます。さらに延長が認められる場合もあり、最大20日間の身柄拘束となるケースもあります。この間は会社を欠勤せざるを得ません。
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(5)起訴・不起訴の決定
捜査終了後、検察官は起訴するか不起訴にするかを判断します。起訴されれば刑事裁判へ進みます。一方で、不起訴が獲得できればその時点で事件が終了となり前科もつきません。
検察官が起訴か不起訴かを判断する際は、次のようなことを総合的に考慮します。
- 犯人に関する事項:性格、年齢、境遇、前科前歴の有無、監督者の有無。
- 犯罪行為に関する事項:犯罪の軽重(被害の程度)、犯行の動機、態様の悪質性。
- 犯行後の情況:反省・改悛の情の有無、被害者の被害感情、処罰意思の程度、示談の成否、環境の整備(再犯防止策)。
4、刑事事件のことは弁護士に相談を
上司を殴るなどし、暴行罪や傷害罪に問われそうなときは、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、被害者との示談交渉や取り調べに向けたアドバイスなど、逮捕や起訴、懲戒処分を回避するためのサポートが可能です。具体的に弁護士が行うサポートを紹介します。
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(1)被害者との示談交渉
暴行罪・傷害罪はいずれも被害者との示談が極めて重要です。示談が成立すれば、身柄拘束や起訴を回避できる可能性が高まります。また、会社側が懲戒解雇を検討する際にも、情状を汲み取る要素となります。
相手が上司だからといって加害者本人が直接交渉すると、感情的な対立によって事態が悪化するリスクがあるため、弁護士に任せて冷静かつ法的に適切な条件で示談成立を目指すのがおすすめです。 -
(2)取り調べに向けたアドバイス
警察や検察官による取り調べでは、動機・経緯・反省の有無などについて詳細に聴取されるのが通常です。不用意な発言や感情的な供述をしてしまうと、不利な証拠として扱われるおそれがあります。
そのため、弁護士から事実関係の整理や認否の方針、反省文の作成方法などについて具体的な助言を得ることが大切です。 -
(3)早期釈放に向けた活動
逮捕・勾留された場合、弁護士は早期釈放に向けた活動を行います。たとえば、勾留に対する準抗告や早期釈放を求める意見書提出などを行います。
身柄拘束が長引けば、会社を長期で欠勤せざるを得ません。早期に弁護士に依頼することで、不要な長期勾留を防ぎましょう。 -
(4)不起訴に向けた弁護活動
弁護士は、不起訴処分の獲得を目指して弁護活動を行います。具体的には、次のような活動です。
- 再発防止策の整理
- 被害者との示談交渉
- 謝罪文の提出
- 前科前歴がないことの主張
- 偶発的な犯行であることの主張
- 反省していることの主張 など
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(5)会社対応への助言
刑事事件と会社の懲戒処分は別問題ですが、相互に影響します。示談成立や身柄拘束の回避、不起訴処分が、懲戒処分においても考慮される可能性があります。
弁護士は、刑事事件の進捗を踏まえた会社への説明方法や謝罪の仕方、退職勧奨への対応などについても助言が可能です。また、トラブルの再発防止として、当事者同士を別の職場にする「配置転換」の提案など、会社側が雇用を継続しやすい環境作りについてもアドバイスできます。
5、まとめ
職場の部下が上司を殴ってしまったら、刑法第208条の暴行罪または刑法第204条の傷害罪が成立する可能性があります。さらに、会社から懲戒処分や解雇を受ける可能性も否定できません。
しかし、示談の成立や適切な対応によって、不起訴や処分軽減の可能性は十分にあります。
今後の人生や仕事を守るためにも、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。ベリーベスト法律事務所 京都オフィスには、刑事事件の実績が豊富な専門家が在籍しています。丁寧にサポートしますので、いつでもご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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