フレックス制における残業代と有給休暇|相殺の可否と未払い時の対応
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フレックス制とは、フレックスタイム制の略語です。一般的に、一定期間の総労働時間の範囲で、労働者が勤務時間を自由に設定することができる制度を指します。
労働者にとってメリットの大きい制度ですが、残業に関する取り扱いが一般的な労働時間制とは異なるため、残業代の仕組みや有給休暇を取得した場合の取り扱いが複雑になる点に注意が必要です。
本コラムでは、フレックス制における残業代と有給休暇について、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスの弁護士が解説します。
1、フレックス制とは|基本的な仕組みと残業代の考え方
そもそもフレックス制とはどのような制度なのでしょうか。以下では、フレックス制の基本的な仕組みと残業代の考え方について説明します。
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(1)フレックス制とは?
フレックス制とは、清算期間内の総労働時間を定め、労働者が総労働時間の範囲内で自由に勤務時間を設定することができる制度です。フレックス制における清算期間内とは、労使協定で定められた特定の期間のことで、最長3か月以内と定められています。
従来の労働時間制は、1日の労働時間が固定されていますが、フレックス制では、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)や、いつでも出社または退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)を設けるケースが多いでしょう。
そのため、フレックス制で働く労働者は、私生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができます。 -
(2)フレックス制における残業の考え方
フレックス制が適用される労働者にも残業代が支払われますが、一般的な労働時間制とは残業の考え方が異なります。
フレックス制における残業は、1日および1週間単位では判断するものではありません。清算期間の法定労働時間の総枠を超えた時間が残業になります。
そのため、36協定においては、1日の延長時間について決める必要がないため、清算期間を通算した延長時間が決められているケースが多いでしょう。
2、フレックス制の有給休暇の計算方法は? 残業と有給休暇の相殺はできる?
フレックス制で年次有給休暇を取得した場合、どのような計算になるのでしょうか。また、残業と年次有給休暇の相殺は可能なのでしょうか。
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(1)フレックス制の有給休暇の計算方法
フレックス制が適用されている方が有給休暇を取得した場合、その日は労使協定で定めた「標準となる1日の労働時間」働いたものとみなされます。
なお、この「標準となる1日の労働時間」は、フレックス制において有給休暇を取得した際に、何時間分の労働をしたものとして賃金を計算するのかを明確にするため、労使協定に定めることになっています。
つまり、フレックス制の労働者が有給休暇を1日単位で取得した場合、標準となる1日の労働時間を労働したものとして取り扱うべきこととなります。もし、この様に取り扱われていない場合は、問題がある、といえるでしょう。 -
(2)有給休暇で残業を相殺することは原則として不可
有給休暇をとったからという理由で、そのほかの日に発生した残業(時間外労働)を相殺することは原則としてできません。
なぜなら、有給休暇を取得した場合に支払われる給料には、残業による25%の割増賃金が含まれていないためです。有給休暇で残業の相殺を認めてしまうと、労働者が不利益を被ることになってしまいます。 -
(3)例外的に有給休暇で残業を相殺できるケース
有給休暇で残業を相殺するのは原則として違法となりますが、以下のようなケースであれば例外的に有給休暇と残業の相殺が認められる可能性があります。
① 時間単位の有給休暇を取得したケース
有給休暇は、労使協定を締結することで、時間単位で取得することが可能です。
たとえば、所定労働時間が午前8時から午後5時までの会社で働いている方が、2時間の時間単位で有給休暇を取得して、午前10時から午後7時まで働いたとします。この場合、有給休暇の2時間分は労働時間には含まれませんので、所定労働時間外に働いてはいるものの、通算すると所定労働時間を超えて働いたことにはならないため、割増賃金の対象となる残業は存在しません。
そのため、午後5時から7時までの残業と2時間単位の有給休暇を相殺したとしても労働者に不利益が生じないため、相殺が認められます。
② 半日の有給休暇(半休)を取得したケース
有給休暇は、就業規則で定めることで、半日単位で取得することも可能です。
時間単位の有給休暇の場合と同様に、半日の有給休暇を取得したケースでも、前記のとおり通算して労働時間が所定労働時間を超えて働いたことにはならないことによっては割増賃金が発生しない時間外労働があります。その場合は、割増賃金が発生しない老時間外労働と有給休暇を相殺することができます。
③ 代替休暇制度を利用したケース
代替休暇制度とは、月60時間を超える時間外労働に対して、割増賃金の代わりに有給休暇を与える制度です。
月60時間を超える時間外労働に対しては、50%以上の割増率で割増賃金が支払われます。この代替休暇制度を利用した場合、割増賃金の一部の支払いの代わりに、有給休暇を付与してもらうことができます。
これは、法律上認められた制度です。適正に運用されている限りは違法にはなりません。
3、フレックス制の方が自分の残業代を確認する方法
フレックス制が適用される労働者の方が自分の残業代を確認するには、残業代の計算方法を理解しなければなりません。フレックス制の残業代の基本的な計算式は、次のとおりです。
以下では、フレックス制における残業代計算において理解しておくべき各要素について説明します。
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(1)1時間あたりの基礎賃金
1時間あたりの基礎賃金は、以下のような計算で求めます。
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月あたりの平均所定労働時間
1か月あたりの平均所定労働時間=(365日-年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
なお、「月給」には、以下の手当は含まれません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住居手当
- 臨時に支払われた手当
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
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(2)割増率
時間外労働、深夜労働、休日労働に対しては、以下の割増率が適用されます。
- 法定労働時間を超えた時間外労働:25%以上
- 月60時間超の時間外労働:50%以上
- 深夜労働(午後10時から翌午前5時まで):25%以上
- 法定休日労働:35%以上
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(3)残業時間
フレックス制における残業時間の考え方は、清算期間が1か月の場合と1か月を超える場合とで異なりますので、以下ではそれぞれの計算方法をみていきましょう。
① 清算期間が1か月の場合
清算期間が1か月の場合の残業時間は、以下の計算式により求めます。残業時間=実労働時間-総労働時間
なお、総労働時間が法定労働時間と同じ時間だった場合、1か月の日数に応じて、以下の時間が総労働時間になります。
- 1か月が31日の月:総労働時間は177.1時間
- 1か月が30日の月:総労働時間は171.4時間
- 1か月が29日の月:総労働時間は165.7時間
- 1か月が28日の月:総労働時間は160.0時間
② 清算期間が1か月を超える場合
清算期間が1か月を超える場合の残業時間(時間外労働時間)は、以下のいずれかに該当する時間になります。- 1か月ごとに週平均50時間を超えた労働時間
- 上記を除き、清算期間を通じて法定労総時間の総枠を超えた労働時間
すなわち、清算期間が1か月を超えるフレックス制では、特定の月の労働時間が法定労働時間を超えたとしても直ちに時間外労働にはならない点に注意が必要です。
4、未払い残業代を払ってほしいとき起こすべき行動
未払い残業代があることが判明したときは、会社に対して残業代請求をすることができます。以下では、未払い残業代を支払ってほしいときに労働者が起こすべき行動を説明します。
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(1)残業代請求に必要な証拠を集める
残業代請求をするには、残業代が未払いであることを証拠により立証していかなければなりません。証拠がない状態で会社に残業代請求をしても、残業代の支払いに応じてもらえる可能性は低いといえます。
まずは、以下のような証拠を集めるようにしましょう。- 求人票
- 労働契約書
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 給与規程
- 給与明細
- 賃金台帳の写し
- タイムカード
- 勤怠管理ソフトのデータ
- 上司の承認印のある業務日報
- パソコンのログイン、ログアウト記録
- パソコン画面のスクリーンショット(時刻が映っているもの)
- 業務に関連するメールの送信記録
- 上司宛の退勤報告メール
- 業務上使用した携帯電話の通話記録
- オフィスの入退室記録
- 警備会社の警備記録
- 交通系ICカードの記録
- 帰宅時のタクシーの領収書
- タコグラフ
- 家族への帰宅を伝えるLINEやメール
- 残業時間を記録した手書きのメモ
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(2)未払い残業代の金額を計算する
残業代請求に必要な証拠を確保したら、次は未払い残業代の金額を計算します。
フレックス制における残業代の計算方法についてはすでに紹介しましたが、非常に複雑な計算が必要です。知識や経験がない方では、正確な計算は困難ですので、未払い残業代の計算は、弁護士に依頼することをおすすめします。 -
(3)会社と交渉をする
未払い残業代の計算ができたら、会社との交渉を開始します。
残業代請求には3年の時効があり、3年前に発生した過去の未払い残業代を支払ってもらうことは難しくなります。時効の完成を阻止するためにも、まずは内容証明郵便を送付するのが一般的です。
なお、会社との交渉がまとまらないときは、裁判所に労働審判の申立てや訴訟の提起が必要になります。 -
(4)弁護士に相談する
会社に対する残業代請求を検討中の方は、自分で対応しようとしたり、労基署へ相談したりするのではなく、弁護士に相談・依頼するほうがスムーズに進みやすいでしょう。ご自身で対応する場合は準備などに苦労される可能性が高く、労基署に相談しても、個人の未払い残業代請求について対応してくれることはないためです。
まず、弁護士に依頼すれば、残業代請求に必要な証拠収集や残業代計算をすべて任せることができます。そのため、労働者自身の負担は大幅に軽減することは間違いありません。
また、会社との交渉も、弁護士であれば訴訟も視野に入れて行えるため、会社も真摯に対応せざるを得なくなります。結果、交渉による任意の解決も期待できるでしょう。
さらに、労働審判や訴訟に発展したときも弁護士に対応を任せることができます。
このように労働者自身では対応が困難な残業代請求も弁護士に任せれば、法的観点から適切に対応することが可能です。
5、まとめ
フレックス制は、労働者が決められた範囲で自由に勤務時間を設定することができる点が大きなメリットです。しかし、フレックス制でも清算期間における法定労働時間の総枠を超えた場合には、会社に対して残業代を請求することができます。
フレックス制を理由に残業代が支払われていない場合は、未払い残業代が発生している可能性があります。時効になり請求できなくなってしまう前に、一度弁護士に相談することをおすすめします。
フレックス制で働いていて残業代請求を検討しているのであれば、ベリーベスト法律事務所 北千住オフィスまでお気軽にご相談ください。労働問題についての知見が豊富な弁護士が、全力でサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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